|
唐木英明先生
1964年東京大学農学部獣医学科卒業。
84年7月東京大学大学院獣医薬理学教室教授。
2003年退官。
東京大学名誉教授。専門は、基礎獣医学、トキシコロジー。
研究テーマ=化学物質や食物の作用の研究など。
日本学術会議会員。
食品安全委員会専門委員。
麻布大学客員教授。
今日は次の4つの話をしようと思います。
・BSEとはどんな病気か
・日本のBSE対策の見直し
・米国産牛肉は安全か
・国際基準の改正
・BSEとはどんな病気か
ご存じのようにBSEの原因は、BSEプリオンと呼ばれるタンパク質です。これを牛が食べますと、回腸遠位部で感染します。これが神経を伝わって、脊髄に行き、脊髄を伝わって脳に溜まる。こうなると、ヨロヨロとして倒れてしまう。BSEを発病するんです。
さて、この異常プリオンの66・7%が脳に溜まります。次に多いのが脊髄で25%くらい。そのほか全部あわせると99・7%くらいが、いわゆる危険部位と言われる部分に集まっているのです。
肉には異常プリオンは溜まりません。ですから肉は危険部位じゃないんです。
危険部位さえ全部とってしまえば、牛肉は安全と言えるわけです。
つまり、BSEはフグの中毒に似てるんですね。
フグの毒は卵巣や肝臓にしかない。これを取ってしまうと肉は安全に食べられます。BSEも同じです。
フグを安全に食べるために検査なんかしていません。同じように、BSE検査は牛肉の安全のためには全く必要ないんです。
牛肉の安全を守るために重要なのは、この3点です。
・原因はBSEプリオン
・BSEプリオンは危険部位に溜まる。
(肉にはBSEプリオンはない。危険部位を除去すれば肉は安全)
・BSE検査は安全対策にはならない
世界のBSE対策を見ていただいても(右図参照)、全頭検査は「安全対策」ではなく、「安心対策」にすぎないとおわかりになると思います。
・日本のBSE対策の見直し
さて、日本は最近、BSE対策の見直しをしようとしています。
今まで日本で見つかったBSEで一番若いのが21ヵ月齢と23ヵ月齢。このほかは全部、30ヵ月齢以上です。
国際的に見ても、20ヵ月齢程度のBSE感染牛はきわめて珍しい。さらに20ヵ月齢以下は全く見つかっていないことから、検査をしてもしょうがないとなるわけですね。
そこで、食品安全委員会は20ヵ月齢以下の牛は本当に検査をしなくても安全かどうかという「リスク評価」をやりました。
すると、20ヵ月齢以下の牛は検査しなくても、食肉の汚染度は無視できるか、あったとしても非常に低いレベルだから我々の健康に被害を与えるものではないという結果が出たわけです(上図参照)。
検査の有無に関わらず、日本の20ヵ月齢以下の牛は食べても安全とわかったわけですから、全頭検査は止めるという方向になりました。
ただし、全都道府県は全頭検査を継続する意向を表明しています。国も3年以内に限り、これを援助する方針です。
実質的には全頭検査は続く。「検査こそ肉の安全を守る」という誤解が根強いからです。
国は全頭検査を止めますが、全地方自治体は継続するという、おかしなことがこれから始まることになります。
・米国産牛肉は安全か
さて、今日の主題、米国産牛肉は安全かというお話です。
まず、米国の牛肉は、どのように生産されているのかをお話ししましょう。
アメリカの肉用乳牛は牧草地に放牧されています。そこで自然交配をして、牧草地のあちこちで子どもを生みます。
子牛は6ヵ月齢くらいまで母牛の母乳で、その後は牧草地の草を食べて12ヵ月齢くらいまで育ちます。
子牛が12ヵ月齢くらいになると、フィードロットと呼ばれる肥育場に集め、ここでトウモロコシ等の穀物飼料を食べて、16ヵ月齢から20ヵ月齢くらいの間で出荷されるというのがアメリカの牛の育ち方です。
問題は、この間に肉骨粉を食べる可能性があるか、ということです。
私は、コロラド州の大きなフィードロットの責任者に「肉骨粉を食べさせないのか」と言ったら笑われました。
「肉骨粉はすごく値段が高いんだ。確かに栄養価は高いけれども採算が合わない」と言うんです。
「アメリカの肥育場で肉骨粉を肉牛に使っているところなんか無い」と言われました。
また、アメリカで処理される牛は年間3500万頭。
何歳でと畜するかというと、半分以上の牛が14ヵ月から16ヵ月。だいたい18ヵ月齢以下で肉になってしまうのが食用牛の実態です。
アメリカには牛のトレーサビリティシステムがないから輸入再開してはいけない、なんて意見もあります。
確かにアメリカ全土で共通のトレーサビリティシステムは、今はありません。
ただ、地域によっては生産施設がどこかを識別できるシステムがあります。
また、群れの識別システムがあります。どこの牧草地で、何月から何月の間に生まれた牛か、わかるわけです。
それから一番厳しい個体識別、これは牛に耳票をつけて、無線で牛の情報が読める識別システムを今、準備中です。
2009年にはアメリカも日本によく似た識別システムが完成するということです。
また、アメリカにはBSE感染牛がいるのに検査しないで隠してるんじゃないか、という話があります。
しかし、アメリカは、緊急サーベイランス調査というのをやりました。2004年の6月に開始して、2005年の5月に終了するプログラムですが、その間にアメリカ中の高齢牛を緊急に重点的に調査しようということです。
アメリカには30ヵ月齢以上の牛が4500万頭います。そのうち歩行障害や病気の牛(リスク牛)が45万頭くらいいると考えられます。
このうち、一定数を抽出して検査するのが、このサーベイランス緊急調査です。
統計学的には、45万頭のうち20万頭を検査すると95%の確率で蔓延状況がわかる。27万頭を検査すると99%の確率でBSEがわかるということで、これに近い数を調べているはずです。そのほかに30ヵ月齢以上の健康牛、2万頭を検査しています。
次に、アメリカの牛肉産業の実態はどうでしょうか。
じつはアメリカの牛肉産業界は大変、集約が進んでいます(図3参照)。
生産農家、肥育業者、パッカーと言われる食肉処理場とも、ほんの一握りの大手の寡占状態なのです。
ですから「ビッグファイブ」と言われる5大パッカーがきちんと危険部位の除去をやれば、80%から90%の肉の安全は確保できることになります。
アメリカの法律では、危険部位の除去は、30ヵ月齢以上の牛だけでいいことになっています。これはアメリカだけではなくて世界基準です。
ところが日本はこれを全頭、取っています。そこでアメリカの5大パッカーは「日本への輸出用は0歳時から全部取りますよ」と言っています。
また、大きなパッカーはすでに全頭除去しています。
というのは何歳か見分けて、取る、取らないというほうが、かえってめんどう、全部取るほうが簡単だというわけです。
ですから現実にはほとんど全頭、取っている。危険部位の除去についても全く問題がないということだと思います。
そして、アメリカの偉いところは、国際調査団によるBSE対策の検討、評価をしてもらっていることです。日本はやっていません。
本当は日本もやらなくちゃいけないんですけど、じつは、そういう専門家が来日すると必ず言うのが「全頭検査は無駄だよ」ということ。
政府はそれを言われるのがいやで専門家を呼ばないんじゃないかと思うんですが(笑)。
さて、5月はじめに厚生労働省と農水省が、アメリカ・カナダにおけるBSE対策に関する現地調査に行きました。
そして、次のように報告しました。
まず、と畜場における危険部位除去と月齢判別は、HACCP等の近代的な衛生管理法のもとで行なわれているということ。
次に、30ヵ月齢未満の脳・脊髄についても除去していたと。
それから、一部の牛は出生届で20ヵ月齢の判別が可能であったと。
これは、先ほどお話ししたように、まだ国として統一はしていませんが、ローカルに出生記録をとっているため、20ヵ月齢の判別ができる牛もあるわけです。
そして、これが問題になっていたところですが、物理学的成熟度、A40(エーフォーティー)による月齢判別の考え方を聞いてきましたと。
これは肉の成熟度でだいたいの月齢を測る方法で、A40とされた牛は20ヵ月齢以下だと判別できるということなんです。
ここまでは人への感染を避ける対策でした。
では、牛から牛へ感染するのを避けるための飼料規制の実態と遵守状況はどうか。
まず、大規模な飼料等の関連施設を中心に、蓄種別の分離が進んでいたということです。つまり牛、豚、鶏の餌を別々に管理している。こうすると交差汚染がないということですね。
また、こういう分離をしてない施設でも、交差汚染等の防止のため、制度に従った管理が行なわれていたと。
以上のように厚生労働省と農水省の報告書が発表しています。
そういうわけでアメリカの対策はかなりしっかりしていると、考えていいと思います。
では、米国牛肉の輸入が解禁になるのは、どういうタイムスケジュールでしょうか。
食品安全委員会がたぶん8月から9月に食品安全委員会が輸入条件を認めることになるだろうということです。
そうなると10月以降に米国産牛肉の輸入解禁が実施されそうです。
では、どのくらいの肉が入ってくるのでしょう。
A40(20ヵ月齢以下)だけを輸入するとしたら、A40にランク付けされるのは全体の約20%です。
すると解禁前まで入ってきた肉の20%くらいしか入ってこないのではないかと考えられるわけです。
・国際基準の改正
最後に、国際基準の改正の話をさせていただきます。
BSEに関する国際基準が今度、変わります。これをOIE(国際獣疫事務局)が審議しています。
OIEは、WTO(世界貿易機構)という貿易品の規準を決める国際機構の依頼を受けて、「動物の健康および、動物と人間の共通感染症に関する国際基準」を作っています。
今回、検討されているのは大きく分けて4項目です。
特に重要なのが1番目の項目です。これが通れば、日米の牛肉輸入摩擦なんてものは、どこかにすっとんでしまうはずです。(※この4項目は講演の後、OIE総会で一部修正の上、採択された)
なぜ今、こんな見直しが行われているのでしょうか。
それは、肉骨粉の禁止を徹底した結果、どこの国でもBSEはほとんど沈静化し、BSEの問題は過去のものになりつつあるからです。
それほど厳しい規制をしなくても、もう大丈夫だということが世界的になコンセンサスになりつつあるのです。
世界中で日本だけが「BSEがまだ怖い」と大騒ぎをしているのです。
我々がアメリカに要求すべきは、BSE検査ではなくて、危険部位をきちんと取ってください、ということです。
そのためには、アメリカの大手のパッカーに日本から検査員を派遣して、危険部位の除去を確認することが一番有効な手段と言えます。
これには前例があって、日本の和牛をアメリカに輸出する食肉処理場へは、アメリカの係官が来て検査をしていました。その工程だけHACCPというアメリカの衛生管理方式に基づいて処理していたのです。
同じことを日本がやればいい。これが一番の安全・安心対策になるだろうと考えます。
全頭検査安全神話を信じさせられた消費者が輸入再開に反対するのはしょうがない。
しかし、検査をすることで儲かる人、あるいは禁輸が続くほうが儲かる人が「輸入再開反対」と言っている。
本当に健康被害が出るなら危険ですが、アメリカの牛肉にはその心配はないわけです。
ですから、本当に困っている人が団結して声をあげなくてはいけません。
先日の100万人署名が大成功したのは非常に良かったと思っております。
さらに「輸入再開反対」の声に何とか対抗して、困っている人の声を大きくするということが今後、大事だろうと考えております。
ご静聴、ありがとうございました。(文責・全国焼肉協会)
|